対 律子

(仕事の合間。小さく背伸びをすると、向こうの机で書類と格闘している律子の方を見る)
律子「どうしたんですか?プロデューサー?」
P  「律子さんは、かわいいなぁって思って」
律子「(盛大に引く)いきなり何言い出すんですか!」
P  「そう思ってなきゃ、プロデュースなんてできないよ?」
律子「(疑いのまなざしを向けたまま)……どうしてです?」
P  「プロデューサーの仕事は、担当アイドルの魅力を伝えて、こんなにいい子なんだから、みんなファンになろうぜっていうことだからな」
律子「それはそうでしょうけど、だからっていきなりそんなことを言い出さなくても」
P  「いや、大切なことだよ。私が律子さんのどこを魅力的と感じているかは、これからのプロデュース戦術を考える上での基礎になるから」
律子「(視線で、次の言葉を促す)」
P  「律子さんの、どんな魅力を武器に売り出すかを考える前に、律子さんのどこが魅力的かを伝えておかないと、何を狙ってプロデュースしてるのか、伝わらないでしょう?」
律子「だったら、先にそう言ってください」
P  「それじゃ、効果半減だよ。考えた言葉じゃ、不意に浮かんだ言葉の半分も力がないから」
律子「突然そんなことを言われても、こっちが困るんですけど」
P  「だから、余裕のある今のうちに伝えておこうと思って」
律子「はぁ……(ぼそっと)本当に大丈夫なのかな、このプロデューサー……」
P  「協力して欲しい、そう言ったからには、私の手駒を全部律子さんに伝えておかないとね」
律子「伝え方くらい考えてください」
P  「考えた結果だよ。思った時にすぐ言葉にするのが、一番正確だから」
律子「こっちにも、聴く準備というものがあるんですけど」
P  「身構えて、何を聴くか明確にすることだけが準備じゃないぜ?」
律子「仕事中にいきなりじゃ、準備なんてあるわけないじゃないですか」
P  「私がそばにいる限り、まったく何もないなんてことはないと思うけどな」
律子「それは、確かに一人でいる時とは違うかも知れないですけど……」
P  「何より、身構えていない時じゃないと、見えない魅力があるから」
律子「……どうしても、そちらにつなげたいんですね、はぁ」
P  「律子が自分の魅力に気づいたら、もっとずっとうまく行くと思うからだよ」
律子「私は、そんなに魅力的じゃない……かわいくないし、口うるさいし……」
P  「そう言うところが律子さんの魅力なんだよ。これから、その魅力がみんなに伝わるようにがんばるから」
律子「どうしても信じられない(目をぎゅっと閉じて、首を振る)」
P  「それを信じられるようにするのが、私の仕事。じゃ、そろそろ仕事に戻ろう?」
律子「(まだ少し不満そうだが、頷いて、書類に向き直る)」
ほとんど前に進めない。難しいな。というか、展開に無理がある。飛躍している場所が何カ所かあるから、この展開にはなり得ないよ。今の私の限界もあるけれど、この状況で迫ろうとすること自体が無理なのか。